役員報酬を固定ではなく前期の純利益の10%などと決めてよいか?

相談内容

毎期の役員(㈹取締役の)報酬額について質問です。毎期の報酬は固定ではなく、前期の純利益の10%を、当期の㈹取締役の給料の額にすることは可能ですか?


回答

取締役等の報酬について商法では
商法第269条で 「取締役ガ受クベキ報酬ニ付テノ左ニ掲グル事項ハ定款ニ之ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
1.報酬中額ガ確定シタルモノニ付テハ其ノ額
2.報酬中額ガ確定セザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル算定ノ方法
3.報酬中金銭ニ非ザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル内容」
となっています。
 
つまり「『前期の』純利益の10%を」報酬総額とすることは同条同項の第2号にいう「具体的ナル算定ノ方法」にあたりますので可能です。ただし、もし「今期の利益の」とした場合は、予想であって確定した根拠ではありませんので、「具体的ナル算定ノ方法」とはならないと解します。しかも税務上は利益操作にあたりますので、一部について損金を否認される可能性があります。
また、商法上は「具体的ナル算定ノ方法」と認められても、税務上はその支給の仕方には注意が必要です。
国税庁の役員報酬についての解説の中には、「あらかじめ定められた支給基準によって、毎日、毎週、毎月のように、月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給される定期の給与は報酬となります。ただし、これらの給与でも通常の昇給等以外に、特定の月だけ増額支給された場合は、その給与のうち各月に支給される額を超える部分は賞与として取り扱われます。」となっています。従って、算定された総報酬額を十二ヶ月に分割した額を毎月の報酬額とすることが必要となります。
 
ちなみに今年五月に施行予定の会社法では
会社法第361条で 「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容」
となっていて、商法と同様です。
 
しかも商法では、「取締役ガ受クベキ報酬ニ付」とされているところ、会社法では、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価」とされています。つまり商法では、取締役が受ける賞与は事前に決めるものではなく、利益処分にあたるものとして、事業年度の終了後に法人税などを支払った後の利益等の処分可能額の範囲で株主総会の決議により初めて決められる、とされていました。そのため、取締役の賞与は原則として損金扱いになりませんでした。
 
ところが、会社法では事前に決めることが出来るものに報酬だけでなく賞与も含まれています。ですから事前に賞与についても金額又は計算方法、金銭以外のもの、例えば自己株式とか、を定めておくことができるようになります。
さらに、そのことから取締役の賞与は利益処分の対象としなくてもよいと解されますので、損金扱いされるのではないか、という意見もあります。
 
ただし、法人税法では、第35条で「内国法人がその役員に対して支給する賞与の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」となっていますので、最終的には税法の改正を待たなければ賞与に関しては原則として損金扱いできないことになります。
 
なお、文中で 「『原則として』損金扱いできない」としているのは、取締役とされているが名目的であって、実際は他の従業員と同じく労働の対価として賞与が支給されているような場合には損金扱いできるからです。
そのことは法人税法第35条第二項に「その使用人としての職務を有する役員に対し、当該職務に対する賞与を他の使用人に対する賞与の支給時期に支給する場合にお いて、当該職務に対する賞与の額につき当該事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額のうち当該職務に対する相当な賞与の額として政令で定める金額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」とされています。
 
以上です