取締役を辞任したいが、損害賠償を求められないか?

相談内容

私は従業員数名の零細企業の社員です。
社長の親族ではありませんが、後継者がいないため、私を後継者とする話になり、5年ほど前に私は会社の株式の25%を250万円で買い取って出資するとともに、取締役に就任しました。
その後、本業に加えて別の新しい事業を始めることとし、私はその事業部長として業務の内容一切を試行錯誤で遂行してきました。
 
新規の事業ですから当初の赤字は覚悟していましたが、5年たった現在でも、公的機関からの売り上げはそこそこあるものの、事業部全体としては赤字が続いています。
現時点では私の能力の限り尽くせる手はすべて尽くしたので、市場が変わらない限り、今後も黒字化しないと判断しています。
そこで、いっそのこと、今の会社を辞めて新しく別の会社に平の従業員として就職しようかと考えているのですが、3つ問題があります。
 
1つは、約2年前から継続的に給与の一部しか支払われず、未払い給与が150万円ほどたまっていてそれを支払ってもらうにはどうすればよいかということ。
2つ目は、会社に対する私の貸付金が150万円あるが、借用書がないため、あきらめざるを得ないのかということ。
3つ目は会社の株式をもっているがそれを買い取ってもらえるだろうかということ。
 
さらに、会社を去った後の心配事が2つあります。

1つは、取締役責任を追及されないかということ。
2つ目は連帯債務を押しつけられないかということです。
 
なお、会社の経営状態は最悪ですが、社長の個人資産からの補てんで何とか不渡りは出さない程度の状態です。また、決算書は粉飾なしで黒字にしていると社長は言っています。
なお、未払い給与については、従業員給与としての分は給与明細があり、それに上乗せして月額数万円が役員報酬が支払われる約束になっています。
また、出勤簿は3年ほど前から押印しなくなっていますし、タイムカードはありません。
こういう状況なのですが、労働基準監督署に出向いて表ざたにして下手に争いごとにすると、遅延給与をもらえてたとしても、取締役として赤字を出してきたので、逆に損害賠償を求められてしまうのではないかと心配です。
 
取締役就任当初は重役になったというだけで喜んでいましたが、貴HPを拝見して取締役責任の重さを痛感するとともに、役員にしておいた方が会社にとって都合がいだけだったのではないかと思えてきました。
権利を強く主張して争ってでもお金を取ることを考えたらよいのか、出してしまったものはあきらめて穏便にやめた方がいいのかわからなくなってきました。

どうか良いアドバイスをお願いいたします。


回答

あなたからのご相談を整理すると
 
① 未払給与を支払ってもらうにはどうしたらよいか
② 会社に対する貸付の証書がないからあきらめざるを得ないのか
③ 会社の株式をもっているがそれを買い取ってもらえるか
④(今後)取締役責任を追及されないか
⑤(今後)連帯債務を押しつけられないかとなります。
 
取締役はいつでも辞任できます。貴方の辞任の意思は内容証明等で明確に知らせましょう。それ以降については、取締役として登記上残っていても(会社は辞任の日から二週間以内に変更登記をしなければなりません。もし変更登記がされていない場合は法務局に督促をしてもらうことになります。)、会社の契約行為等について取締役としての責任はなくなります。
 
①について、取締役であっても会社に対して未払いの給与や役員報酬を請求できます。改めて期限を切って請求し、支払いが無い場合は支払督促(No.60を参照してください)で請求できます。ただし、争いになった場合は、給与明細がある分以外の役員報酬については取締役会議事録などの証拠があるかどうかが問われることになります。
 
②について、貸付金の証書が無い場合でも、会社の元帳や法人申告の内訳書に明記してあればそれが証拠になります。貴方は現在取締役ですから、当然元帳の閲覧や申告書の閲覧又は写しを請求することができます。もし仮に会社の会計に記録が無い場合は内容証明に、未払い給与の請求と併せて、貸し金の請求をしてみて、相手側から反論が無い場合は貸し金を受け入れている認識が会社側にあるということで、ひとつの証明になります。また貸し付けているのに会社の会計に記録がなければ社長が横領したということで問題にできます。
 
③について、一般に普通の状況では株主は会社に対して自己の株式の買取を請求できません。任意で社長なりが買い取ってくれるように交渉することになります。もし買い取り交渉をしてくれない場合は、貴方が別の第三者に株式を譲渡する場合、会社の承認を得なければなりませんが、会社がその譲渡を認めない場合は別の買い手を会社が指名するか、もしくは会社が買い取らなければならなくなります。つまり会社にとって目障りな人に株式を譲渡したいとすれば、実質上買い取ってもらえる可能性が出てきます。ただし、会社との関係は険悪になるでしょう。
 
④について、取締役辞任後でも、取締役就任時の契約行為等で責任が問われることはありえます。ただし、それらの決定に積極的にかかわっていたという証拠がなければ通常の取締役への責任追及は困難だと思います。また、「労働基準監督署に出向いて表ざたにして下手に争いごとにすると、遅延給与をもらえてたとしても、取締役として赤字を出してきたので、逆に損害賠償を求められてしまうのではないかと心配です。」ということについて、会社から損害賠償が求められるかという心配でしたら、余程、取締役会等で決めた方針に逆らって事業を行ったために赤字を出したということでない限り、赤字に対する損害賠償を求められることは考えられません。また仮に決算書の粉飾があったとしても(文書では「決算書は粉飾なしで黒字にしている」となっていますが‥)株主からの訴訟や、許認可事業の場合に許認可官庁からの処分の可能性は否定できませんが、監督署からの損害賠償ということは考えにくいと思われます。文面から察するに零細企業ということですから、株主訴訟の可能性はない様に思われますので心配はないと思われます。
 
⑤について、取締役であってもなくても、本人の意思に反して連帯債務を押し付けられることはありません。
ただし、既に連帯保証人になっているものについては保証債務は退職後もつきまとってきます。
債務不履行の事故が発生した場合、債権者は債務者(この場合会社)、連帯保証人(社長と貴方)に対して都合のよいところから債権の取立てをすることが可能です。
ただし、社長に資産があるということですから、一般にそれを担保として提供していると考えられます。それを優先して処分すると思われます。仮に担保提供していなくても、社長資産を抑えることが優先されるでしょう。
社長資産を処分しても債務が残る場合に貴方にも支払いの請求がくることが予想されます。そのことが予想される場合は、とりあえず定期性の預金は解約して子どもなどの家族に110万円以内(贈与税がかからない)で贈与しておくことをお勧めします。なぜなら定期預金は差し押さえがしやすいからです。
 
いずれにしても貴方に債務履行の請求がきた場合は金融機関とよく相談することになります。そして可能な方法を協議しましょう。
それでも協議結果どおりの支払いが出来ない場合、又は支払いたくない場合は、①自己破産する方法、②支払いを裁判所の決定にゆだねる、の二通りが考えられます。
①は裁判所の判決で債務が無かったとする方法ですが、貴方の不動産等があればそれを処分することが前提となります。
②の場合、貴方に目に付く資産が無い場合、債権者が貴方に支払いを催促しても、裁判所は生活費を除く範囲でしか取立てを許しません。例えば給与収入が月額33万円以下ならその25%までということになります。
ただし、この場合貴方が勤めている会社を通しての取立て(第三債務者取立)となりますので、今後勤める会社の理解が必要となります。
 
以上を参考にしてください。